挨 拶
人間社会における美術館は、生態系のなかでのナナフシです。それはどちらも一見、何の役にたつのかわからないと思われているからです。ナナフシは私が一番好きな昆虫で、葉を食べ、敵に見つからないよう枝に擬態しているだけですが、実は葉を食べることで森林の更新を進めるという重要な役割(生態学で「ニッチ」という)を担っています。
美術館も従来、人間社会で何の役にたつのかわからないと思われがちですが、そうではありません。特に現代アートは、既成概念の打破や新しいものの見方を呈示する目的で制作されることが多く、作品を見る人が議論をして、自分のものさしで物事を判断できるようになることが「シトワイヤン(能動的市民)」の誕生につながり、権力者の間違った煽動に動かされないシトワイヤンの誕生こそ、平和な社会への礎になるからです。つまり美術館は、平和を希求する人間社会の中で重要な「ニッチ」(役割)を占めています。この役割を果たすため、私たちは、翠緑のなか軽井沢の自然と調和し、美術館が陥りがちな権威主義を打破する展示をしながら見る人と対話をし、現代アートの真の愉しさを一緒に感じてゆきたいと考えています。
ナナフシ館長
沿 革
当館の前身は、1962 年に東京の高輪に開館した高輪美術館であり、故堤康二郎の日本伝統美術の保存、公開をしておりました。1981 年に故堤清二(元当財団理事長)の意向により「現代美術」に対象を定め、伝統的な価値の承認者=保護者としての美術館から脱皮した、同時代の様々な実験的創造の場となる「時代精神の根拠地」として軽井沢の地に設立され、開館記念展「マルセル・デュシャン」展と共に開館いたしました。1990 年に大規模なマン・レイの個展を開催、その翌年の 1991 年に開館十周年を迎えて、美術館の設立目的や活動方針の根拠となる「現代美術」を館名に表示し、「セゾン現代美術館」と改称して再出発いたしました。美術館建築は、建築家の菊竹清訓氏による設計であり、美術館の前に広がる庭園は、美術作家の若林奮氏によって基本プランがつくられ、当館コレクションの彫刻作品が常設されています。